· 

”上がり”についての考察

今日はお見合いでの「あがり」…緊張して頭の中が真っ白になり、何を話したのか覚えていない現象を考察してみましょう

 

下記記載は古い記事ですが、プロ(梶原しげる)の目から見た内容ですので、参考にしてください

 

大切な顧客と初めて会う新製品のプレゼンの日がやってきた。「うまくいくだろうか?」「社運がかかっているから頑張ってくれと、上司がいつになく真顔で声をかけてきた」「ここで失敗したら、出世の目はなくなる」・・・。 

 こんな時、どんなに鈍感なビジネスパーソンでも「あがる」という状態を体験させられるだろう。 

 「あがり」というのは“立派な”心理学用語。「演台で発表する時や試合に臨む時などに体験される心身の緊張状態をいう。事の成否が本人にとって重要なほど、不安や緊張感が高まり、目的の行為の達成が困難になることが多い」(有斐閣『心理学辞典』から)。 

 「2度とこんなチャンスはない」「上司や仲間の期待が大きい」「うまくいくかどうかが、自分や家族、会社の将来を決める」「だからこそ、失敗など許されないのだ!」 

 その成功を強く願えば願うほど地に足がつかなくなり、頭の中が真っ白。生あくびが出てきたリ、資料を持つ手が震えたり。普段なら簡単にクリアーできる何でもないことさえできなくなるというジレンマに陥るから始末に負えない。さて、こんな状態をどうすればいいのか? プロはどうしているのか? 

おまじないを実行する 

 プロだって、あがる。
 劇場にはたいてい神棚があり、出演者は舞台の成功を神に祈る。初日には特に念入りに。あがり防止の、これが儀式だ。 

 人という字をてのひらに3回書いて飲み込み「人を飲む」というまじないをやる人も現実にいる。朝起きたら右足から歩き始める。下着をすべて新調する--というように、あがり対策のおまじないをやっているプロも少なくない。ビジネスパーソンも、思い当たるゲンカツギがあったら、ためらうことなく実行しよう。気休めは大切だ。 

 プロが凄いのは、同じあがるにしても、2日目、3日目あたりからは目に見えて、あがり現象が軽減し始め、1週間もたつと多くの出演者はリラックスして、芝居そのものを楽しむようになる。あがりは、場数を踏めば自然に克服できることを物語っている。

私の経験からも、新メンバーで始める新番組ではベテランのアナウンサーやタレント、スタッフでも緊張する。あがり症の私は特にひどい。普段は顔を見せない放送局のえらいさん、スポンサー、代理店、取材記者などががん首を揃えている姿を目の当たりにするのは特によくない。 

 「この企画でこのメンバーですから2桁(視聴率10%)はかたいはずです」と、営業担当社員の根拠のない自信を耳にしたりすると最悪。さっき済ませたばかりなのに、またまた便意をもよおしてトイレに駆け込んだりする羽目になる。そのトイレには別の共演者たちが列をなしていたりする。みんな、あがっているのだ。 

 これとても、番組が始まってしまえば、あっという間にリラックスモードに入るのは、さすがにプロ集団。本番直前にあがって、本番始まりと同時にあがりから解放される。それどころか、あがりのエネルギーをほどよい緊張感や集中力に転換する技を持っているのがプロだ。修羅場を乗り越えた回数が多いほど、「あがり」からの回復力が強い。 

 あがり対策の第一は、場数を踏むことなのである。 

頭の中で、場数を踏む 

 「そんな身も蓋もないことを言うな! 我々一般のビジネスパーソンは芸人ではない。毎回、違った内容を、違った場面で違ったクライアントに提案する。しかも、すきあらば難癖をつけようとする厳しい目にさらされてだ。その成否で、何千万円、何億円というお金がかかっている。1回1回が勝負なのだ」 

 まじめなビジネスパーソンであればあるほど、あがるつらさを深刻に訴える。 

 場所もケースも違うといっても、ビジネスパーソンにとっても場数を踏むことはあがり防止に有効なのだ。実際に場を踏まなくても、場数を踏むのと同じ効果があるのが「メンタルリハーサル」。頭の中で何度も場数を踏む方法である。 

 まず、現実のプレゼン場面を想定する。プレゼン相手も具体的にイメージする。あらかじめ情報を集め、そこに参加するメンバーもできる限り書き出し、各人のキャラクターも調べられるものは調べておく。

当日話すべき内容を書き出し、覚え、それに対する相手方の突っ込みも予測できるものはすべてに回答を紙に書いて用意しておく。これらをおおよそ記憶し、一人芝居のようにやってみる。 

 そしてテープにとって後で振り返る。自分が相手だったら、満足するか? 得するか? どこを突っ込みたくなるか? できれば、先輩や同僚にテープを聞いてもらうのが理想だが、そうもいかないことが多いだろう。自分なりに納得がいくまで何度も繰り返す。 

 これで、場数を踏むのと近い体験をしたことになる。しないよりは10倍あがらないメンタル状況になっている。メジャーのイチローも松坂も、マラソンの野口もみんなやっている方法だ。 

ネガティブリハーサルをする 

 ここで大事なのは、「ネガティブリハーサル」を一緒にやっておくことである。ネガティブリハーサルとは、私の造語である。「最悪の事態が発生することを想定しておけ」ということである。 

 メンタルリハーサルで、おおよその事態に対応できると思っていたら、それとはまるで違う展開になったときの対処法だ。 

(1)パニックですべての言葉が飛んでしまう。
(2)予定の時間がなくなり「5分のところ、なんとか1分でやってくれ」といわれる。 

 世の中、何があってもおかしくない。「ありえない」ことが起こるのが、現実社会だ。 

 (1)の時の対処法は、決め台詞を用意しておく。「緊張で言葉がうまく出てきません。恐縮ですがレジュメを読ませていただきます。ご不明な点についてご質問いただければ、お答えできるかと存じます。どうか、どんどん突っ込んでいただけますでしょうか」といった具合だ。 

 (2)に対しては、「了解いたしました。レジュメの1番だけご説明し、詳しいことは個別にご連絡いただきますよう、連絡先のアドレスを書いておきました。どうか、ご連絡いただきますよう。皆様にとって、必ずや損にならない情報をお届けいたします」と言って、できれば名刺も配るぐらいのつもりでいる。 

 「何とかなるさ」と思わずに、「何となってもOK」という状態を作る。イメージの中で「あらかじめの修羅場」をリハーサル」しておくことで、リアルな場数を踏むのと同じ効果が得られる。プロのしゃべり手やスポーツマン、できるビジネスパーソンは、みんなやっている。

梶原 しげる(かじわら しげる)1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中